どこの病院にも、看護師にくりかえし暴言を吐く患者や家族、医療費を未払いにもかかわらず平然と受診する患者はいますよね。
今までわたしは二次救急や三次救急などの病院で常勤として勤務し、派遣の単発でも複数の施設で勤務した経験があります。
時間帯責任者やチームリーダー、ジョブリーダーなども経験してきたので、その病院(施設)がわたし達スタッフを守ってくれる組織なのか、今ではすぐにわかるようになりました。
その経験をいかして、クレーマー患者に対しての入院や診療についての対応で、その病院がじぶん達を守ってくれる組織であるかの1つの判断材料になればと考えます。
また、クレーマー患者に対する、診療や入院拒否することは可能なのか??について、クレーマー対策を兼ねて解説します。
🌟この記事でわかること
✅過度な要求をするクレーマー患者に対する診療・入院義務は、絶対でなく拒否可能であることを、法的根拠から理解できる
✅過度な要求をするクレーマー患者対策として、私たちが看護部を通して組織に要求できること
✅クレーマー患者に対する対応で、病院が自分たちを守ってくれる組織か判断できる
クレーマーに対する医師の応召義務
医師には医師法第19条1項の応召義務があり、理不尽なクレーマーでも、安易に診療を断ると応召義務違反だといわれて損害賠償請求されたり、医師免許停止などの行政処分の対象となり得ます。

そのような考え方が、クレーマーをより悪質なクレーマー(モンスター化)に助長させるきっかけになり、診療時間外でも患者対応しなければならないと考えられ、医師や看護師の不当で過剰労働につながったともいえます。
2019年までは、悪質なクレーマー患者であっても、応召義務があるとされてきました。
厚生労働省の応召義務に対する新たな指針
2020年に厚労省は、応召義務の法的性質について以下のように述べてます。
✅医師・歯科医師(以下、医師等)が国に対して負担する公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではない(応召義務違反のみによっては、損害賠償義務等は原則として生じない)
✅労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等も応招義務の問題ではない
(勤務医が、医療機関の使用者から労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等を受けた場合に、労働基準法等違反を理由に診療等の労務提供を拒否しても応招義務違反にはあたらない)以上を明確にしています。
ただし、昭和24年厚生省の通知にて「組織としての医療機関は、応招義務とは別に、患者からの診療の求めに応じて必要かつ十分な治療を行うことが求められ、正当な理由なく診療を拒んではいけません」には注意が必要です。
以上の文章を簡略化すると、
🌌応召義務違反のみでは、原則として損害賠償請求されても支払い義務はない
🌌病院で定めた労働契約を超えた患者の過度な要求は、拒否しても応召義務違反には当たらない
応召義務を拒否する正当事由
どのような場合に、患者を診療しないことが正当化されるのでしょうか。
厚労省は次のように挙げてます。
✅緊急対応が必要であるかどうか
✅診療時間・勤務時間内であるかどうか
✅患者と医療機関・医師等の信頼関係の有無
以上の3点を考慮して判断するとあります
次に、事例ごとに考えていきましょう。
悪質なクレーマーの診察拒否が正当化される事例
✅緊急対応が不要(病状の安定している患者)
自覚症状だけで、身体所見がない場合には緊急対応が不要といえます。
特に、ウォークインで来た場合には、そのままタクシーや介護タクシー、自家用車などで帰宅を促せばよい話です。
以前に某病院では、過去に入院中に問題行動を起こしていた患者は、それを理由に入院を拒否していました。
それに対し不服を言っても、賠償請求してくる患者はいませんでした。
むしろ、自身の過度な要求を自覚している部分もあり、病院側や看護師が受けた暴力暴言を名誉棄損で訴えられるリスクを恐れています。
救急搬送であれば、良くある「満床です」と断ればよいだけの話です。
病院は慈善事業ではありません。
悪質なクレーマーを間接的に拒否し、職員への安全配慮義務の観点からも必要です。
一度入院させると、退院させる方が何倍も大変です。
入口で阻止するのがベターです。
✅診療時間外・勤務時間外
できれば「時間内の受診依頼」「他の診察可能な医療機関の紹介」などの対応をとることが望ましいとありますが、努力義務であって罰則はないと考えられています。
外来を予約制にして、クレーマー患者などはあらかじめ診療拒否するなどの対策もありでしょう。
✅患者の迷惑行為
診療・療養などの繰り返された迷惑行為によって、病院側と患者との信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化されます。
つまり、悪質なクレーマーは診療拒否しても罰則はないと考えられます。
✅医療費の未払い
以前の医療費不払いのみを持って診療しないことは、正当化されないとあります。
ただし、支払能力があるにもかかわらず、悪意を持ってあえて支払わない場合には診療しないことが正当化されます。
また、特段の理由なく、未払いが重なっている場合には悪意のある未払いと推定される可能性があり、金額や回数にもよりますが、未払いを理由に拒否しても賠償責任は負わないと考えられます。
✅連日連続しての電話口や窓口での悪質なクレーマー
たび重なる電話や窓口での対応で日常業務に支障をきたしている場合には、発言ややりとりを記録やICレコーダーに残したうえで、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
必ず複数で対応したり、監視カメラを導入するのも必要でしょう。
また、特定の電話に対して、通話拒否の措置をとっても賠償責任は負わないとされます。
応召義務で自らの行いを正当化する医師
患者や職員の安全性を重視する病院では、手術や予約入院、緊急入院、急変対応、不穏対応などで、病棟スタッフが明らかに疲弊し患者対応しきれない状態にあるとき、医師や看護部の判断で緊急入院を一旦ストップさせていました。

その一方で、緊急入院させた人数に応じて、出来高金が支払われるような病院も一部あります。
そうした病院では、病棟がどんなに疲弊していようと無関係に緊急入院させます。
その決めぜりふが応召義務でした。
上層部も「クレーマーでも応召義務があるから入院は断れないんだ」と、緊急入院させる行為を正当化させていました。
また、悪質なクレーマーでも、医師や師長には従順であるケースは多く、自身には関係ないと思っている医師や看護部も一定数います。
手術や診察する以外の入院生活全般をみるのは現場の看護師ですから、週に何回か数分程度接するだけの方々にとっては無関心なのでしょう。
わたしの経験上、そのような病院は、看護部も経営陣の言いなりなので、全く現場の看護師を守ってくれない病院でした。
「揚げ足を取られないように、ていねいに対応して注意しましょう」とか「そのつどなにかあれば記録を残して自己防衛していきましょう」「なにかあったらとりあえずその場から逃げて」とか、自分たちを守ってくれていると全く実感できませんでした。
男性相手に女性がどうやってどこに逃げるというのでしょうか??
すでに、前回入院や外来で問題になって多くの記録や証拠もあるのに、また記録に残したところで何が変わるのでしょうか。
何のためのブラックリストなのでしょうか。
そもそも、なにか起こってからでは遅く、入院させること自体が間違っているのです。
そんな患者を入院させる時点で、病院に対して強い不信感と憤りを感じました。
悪質なクレーマーに対するまとめ

結局、病院の責任者が悪質なクレーマー(モンスターペイシェント)の暴言暴力はけっして許さない、なにかあってもスタッフを守るという言動や組織的な取り組みが、スタッフを安心させて、現場の看護師も患者にもきぜんとした態度が取れます。
応召義務を理由に、現場に責任や対応をおしつけるようなやり方は、法律的にも通用しません。
私たちは、現場として以下の対策を、管理職を通じて看護部から管理者に要求しましょう。
✅応召義務は絶対でないことを、全職種に通達し周知徹底するように依頼
✅過度な要求をするクレーマー患者への対応マニュアルの整備や院内勉強会の開催要求
✅クレーマー患者に対応する部署の設置要求
✅過去に問題行動のある患者は、診療拒否や強制退院を徹底するように要求
✅過度な要求をする患者には、診療拒否や強制退院する方針をHPや掲示板に告知を要求
もし上記をまったく実践してくれない病院では、経営の安定や利益ばかりを追求するような病院と考えられても仕方ない話です。
現場の看護師が患者や家族の過度な要求にいちいち振り回されるだけでなく、さらに患者の過度な要求が助長してモンスター化していく悪循環になります。
もし、あなたがそんな病院で働いているとしたら、何か起こる前に転職を考えた方が安全でしょう。
実際に何かあっても、病院や看護部はわたし達を守ってはくれませんでしたから。
実体験では、わたし自身と同僚が無断で退院しようとした患者をなだめていたら、何発も一方的に殴られました。
にもかかわらず、患者への警告や、わたし達への謝罪要求、強制退院などの処置もまったくしてもらえませんでした。
わたしは、その件がきっかけで、その病院に愛想がつきて退職しました。
無意味に疲弊する必要はありません。ほかにもっといい病院はいくらでもありますから。
実際、今の病院では安心して働けています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ひろくま(HIROKUMA)
投稿を編集 “患者や家族のハラスメントと看護師の残業や休暇、業務負担との関連性と対処法” ‹ 看護師ひろくまブログ — WordPress (nurse-hirokuma.com)
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