皆さん、こんにちは。元気ですか。
入院中、パン食を食べたいと希望する患者や、家族が患者の趣向からパン食を希望したり、なかには勝手に家族が持参して面会中に食べさせていて、びっくりした経験ありませんか??

パン食を食べたいって希望する患者や、パン食を食べさせたいって希望する家族がすごい多いですよね。パン食に変更したり、持参してもらったらダメですか??なんかかわいそうで。

その気持ちはすごくわかるよ。でもパンを食べることで窒息する事例も多くあるし、実際に看護師が賠償責任を問われたケースもいくつかあるんだよ。
実際、パン食が好きな患者は多いです。
特に高齢者では食べやすいのでよく希望されます。
医師に患者や家族が希望してパン食に変更されたり、パン食以外だと食事が進まない患者がいて、やむを得ずパン食に変更するなどのケースもあると思います。
ただ、安易にパン食に変更することは非常に危険をともなう行為なのです。
今回は、患者がパンを摂取することでのリスクと対処法について考えていきます。
高齢者のパン食と窒息リスク
高齢者では、咀嚼・嚥下機能が低下しているため、誤嚥や窒息リスクが高いです。
特に、全身麻酔での術後や脳卒中の急性期、認知症患者、頚椎手術後などでは、窒息のリスクは高まります。
わたしが働いていた病院でも、パン食で一度も誤嚥したことがない患者が、複数名誤嚥してICUに搬送されたことを契機に、ある年齢以上の患者では全員パン食が禁止となりました。
患者や家族から、年齢だけでパン食を希望できず不平不満を言われたケースもありましたが、窒息されて賠償責任を負うことは避けるべきです。
パン食での窒息と看護師の賠償責任
実際の判例で、脳卒中の急性期の患者に、パンを食事介助中に窒息させた看護師が家族に訴えられ賠償責任を負っています。
前回のパン食では全く誤嚥もなく、直前の食事でむせるなどの誤嚥の予兆もなかった状態でしたが、2回目のパン食で窒息したようです。
一時的に胸骨圧迫や挿管をして、結果的に精神障害2級の後遺症が残り、看護師の注意義務違反との判決が出ています。
判決文では「JCS3の状態であり、患者が嚥下に適した食べ物の大きさや柔らかさを適切に判断することが困難な状況にある。食物を一気に口の中に入れようとしたり、自分の嚥下能力を超えた大きさの食べ物をそのまま飲み込もうとする行動に出る可能性がある。また、嚥下に適した大きさに咀嚼する能力も低下しており、食事介助にあたる看護師はそれを十分に予測する事ができたとした」とあります。
最初から1口大でオーダーする工夫が必要でしょうし、脳卒中の急性期にわざわざパン食を提供する必要性もなかったと感じます。
パン食での窒息と医師の責任
一方、食事オーダーは出した主治医の責任については以下の判決文の要約通りです。
「担当医師については、自ら食事介助をすべき義務があるとはいえず、患者に提供すべき食事の形態について指示しており、医師としての注意義務を尽くしている。担当看護師に上記の様な具体的な食事介助の方法についてまで指示する義務があったとは認め難いとして、医師の注意義務違反を認めない」とあります。
しかし、脳卒中の急性期ならJCS3は充分にあり得る話です。
一気に口の中に入れようとしたり、自分の咀嚼能力を超えた食べ物を飲み込む可能性がある患者に、パン食をオーダーした医師は責任がないっていうのは道理に合いません。
栄養科にも責任の一因はあります。
管理栄養士がいるはずで、脳卒中の急性期に医師からパン食の指示があっても、対策や進言もせずに指示通りに食事を提供したことも過失があるはずです。
多くの病院では、全職種で協働との言葉は名ばかりで、実際には現場の看護師に多くの負担や責任を強いるような現状が判決からも明らかと言えます。
パン食の窒息事例から学べること
①一定の窒息リスクがある患者でパン食の場合は医師に相談
判例から考えると、年齢に限らず清明な患者以外ではパン食を提供するべきでないです。
認知症患者だけでなく、JCS0以外ではパン食の提供は避けるように進言しましょう。
個人的には、入院中はパン食で窒息のリスクがあり提供は避けるべきと考えています。
頚椎手術後なども、脊椎のアライメントは変化してむせ込みやすくなります。
ましてや前方除圧固定術では、若者であってもパン食は提供したくありませんでした。
現場の提案を受け入れられなければ、個人的に看護記録を記載しましょう。
「窒息のリスクがあり、中止するように管理職や医師に相談したが、医師指示と患者希望で提供した。栄養科にも一報いれ相談した」などと自衛手段しましょう。
②窒息リスクがある患者にはパン食を提供しない
術後や急性期にQOL改善の観点から、患者の趣向やなるべく早期から経口摂取を開始する事が有効との思いやりの気持ちを持つのは当然です。
しかし、患者を窒息させてしまった場合には、看護の思いなど裁判上では1ミリも考慮もされません。
あくまで、患者の危険を察知して安全配慮義務に努める必要があるからです。
わたしなら、毎回パン食でない限り、パン食で少しでも誤嚥リスクがある患者に配膳しません。

一度配膳してしまえば、JCS3の患者であろうと「提供されたものをなぜ食べたらいけないんだ」とか「自分で食べれる」と主張されたら、パンを撤去したり食事介助するのは困難です。
一食ぐらいパンを食べなくても、他の2食や副食で充分に補えます。
青年や中年でない限り、病院食の量はとても3食10割食べれないと多くの患者が述べています。
どうしてもパンを提供するなら、できる限りその場を離れないことや、事前に一口大の大きさに事前にカットします。
食パンの耳を全て除去します。吸引物品を事前準備することもお勧めします。
1回でもむせ込みしたら撤去も必要でしょうし、不顕性誤嚥の場合はむせ込むとは限らず、それ程誤嚥は恐ろしいものです。
実際には、多重業務のなかでその場を離れない行為は非現実的な話です。
わたしは、幸いなことに窒息のケースには直接遭遇したことはありませんが、いつ当事者になってもおかしくない誤嚥や窒息リスクの高い患者は何百人も食事介助してきました。
「自分は大丈夫」と楽観的に考えることはとてもできないし、窒息させてしまった看護師さんには強く同情します。
③病院の食事オーダーのシステムを理解する
以前働いていた病院でも、全粥食や軟菜食をオーダした場合に、パン禁止と入力しない限り献立によってパンが提供されることがありました。
パンで窒息した事例のなかでも、若手医師が食事オーダーのシステムを周知しておらず、嚥下機能が低下した患者にパン禁止と入力しなかったため、患者に提供され窒息した事例があります。

認知症や咀嚼・嚥下機能が低下した患者での食事では、電子カルテ上で注意喚起が出たり、原則とパンを提供できない設定にシステムを変更することが本来望まれます。
システム科に依頼し、自院のシステムを再点検し、病院全体で改善や定期的な注意喚起や告知を行うことが重要でしょう。
医療事故を回避するために(まとめ)
とある医療訴訟を避けるアドバイスで、ダブルチェックをしたり、投薬や医療に関する知識の幅を広げる、心身のリフレッシュをするなど挙げられていました。
そんな手段で医療事故を回避したり防止できません。解決できたら苦労しません。
公益財団法人日本医療機能評価機構より、「咀嚼・嚥下機能が低下した患者に合わない食物の提供での事故を受けての提言」があり以下の通りです。
①咀嚼・嚥下機能が低下した患者にオーダする食種では原則としてパンを提供しない設定にシステムを変更する。
②咀嚼・嚥下機能が低下した患者にパンを提供することによる窒息の危険性を院内に周知する。
①について、まずシステムを変更するのは看護師ではできません。
以前の病院でも、電子カルテのシステム上で出来ない→現場の看護師が注意喚起や医師に進言するだけで対応していました。
ただ、看護師や医師がシステム科や上層部にシステム上の不備や改善点を要求して、たとえ改善されなかったとしても意義はあります。
何かパン食で事後が起きた時に、現場の看護師や医師の裁量に頼った安全管理は、病院としての職員や患者に対する安全配慮義務を怠っており違反しているからです。
管理職や看護部、医師を通して、組織的に上層部に訴えていきましょう。
②について、いつもこの手の記事は申し送りや伝達事項のファイルに挿入されています。
看護師は食事のオーダー入力(指示)はしません。できません。
新しく医師が赴任したら、入職時オリエンテーションで過去の院内インシデント事例を踏まえ、食事オーダーの注意点などをシステム科や上席医が指導するべきでしょう。
窒息リスクのある患者にパン食の食事オーダー自体がなければ、患者にパンは提供されないです。
数ヶ月ごとに医局の方針で病院巡りする若手医師は、病院ごとのシステムなど理解や周知する前に居なくなるでしょうし、病院で厳しめに統一したボーダーラインを設定するべきです。
入院中にパンを食べなくても死ぬことはないですから。

現場の看護師は、最終的には自身で自己防衛するしかないです。
治療行為は医師業務であり、いくら処置や治療が間違っていると感じても、看護師はそれに対して進言はできても医師指示を拒否できません。
知識や技術だけでは危険を回避できません。
ただし、知識や技術にプラスして情報力や危険予知能力があれば、危険を察知してリスクを避けることはできます。
わたし的には、看護師は院内の全職種のなかで、一番嗅覚に優れていると思います。
常にリスクについて多職種を巻き込んで予測や対策を立てながら、最終責任者との自覚を持ち、しっかりと自己防衛していきましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ひろくま(HIROKUMA)
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