あなたの病院では、患者の転倒転落後の処理はどうしていますか??

転倒転落して外見上や神経学的所見はなくても、急性期に頭蓋内出血や骨折での大量出血などが原因で死亡リスクがあります。
私は今まで3つの二次三次救急病院で勤務し、医療安全委員会の委員長も経験しました。
その経験から、転倒転落後の患者の観察点と適切な処理方法について解説していきます。
転倒転落と死亡リスク
2016年厚生労働省より発表された死亡要因で、不慮の事故は第6位です。
不慮の事故38306件(死亡数の約3%)で、大まかに4つの原因に区分されます。
✅窒息9485人
✅転倒転落:8030人
✅溺死:7705人
✅交通事故:5278人
転倒転落が原因で死亡する方が、交通事故より3000人近くも多いのは、少々驚きませんか??
また、転倒転落での脆弱性骨折も、
わたしの別の記事にある通り、骨折後の2年後生存率は大きく低下します。
転倒転落後の初期対応
転倒転落後の初期対応は、迅速な患者の全身状態の観察と医師への報告につきます。
特に、頭蓋内出血の場合には、救命率は時間との闘いになります。
🌟転倒転落後の初期対応🌟
①応援を呼び、複数名で患者をベッドに臥床させる
②JCS(GCS)の確認やVS測定しながら、外傷や脳卒中症状の有無、四肢の動きを確認
③患者状態に応じ、観察室にベッド移動して、モニター装着や酸素投与を開始し静脈路確保
④リーダーや医師に報告し画像検査・採血検査などの実施
⑤結果に応じた治療や患者状態の観察を継続
上記について、1つずつ解説していきます。
①応援を呼び、複数名で患者をベッドに臥床
転倒した患者をむやみに動かすと、脊椎損傷した患者では症状の悪化リスクがあります。
まずは、応援を呼び人手を集めましょう。
必ず、複数名でベッドもしくは車椅子に介助で移乗しましょう。
意識レベルが清明でなければ、ベッドに臥床させて、
VSや消化器症状(嘔気や嘔吐、頭痛)などに応じた体位調整が必要です。
🌟ポイント🌟
✅転倒後は応援を呼び複数名で対応
✅患者の安静や患者状態を確認するため、愛護的に車椅子やベッドに移乗
✅意識レベルやVS、患者状態に応じた体位調整の実施
②JCS確認やVS測定、外傷や脳卒中症状の有無、四肢の動きを確認
ベッドや車椅子に移乗後、JCS(GCS)で意識レベルを確認する必要があります。
同時に全身状態をチェックします。

肉眼的外傷や疼痛・痺れの有無、四肢の動き(麻痺の有無)、脳卒中症状(嘔気・嘔吐・頭痛・呂律障害・瞳孔不同や対光反射など)を観察しましょう。
また、患者の動揺がひと段落した段階でVS測定を行い、医師に状況報告しましょう。
🌟ポイント🌟
🌌ベッドや車いすに移乗後に意識レベルを確認
🌌同時に、自覚症状の有無(疼痛や痺れなど)、肉眼的外傷、四肢の動き(麻痺の有無)、
脳卒中症状などの全身状態を観察
🌌VS測定を行い、転倒転落後の患者状態を総合的にアセスメントし医師に状況報告
③患者状態に応じ観察室にベッド移動しモニター装着・酸素投与・静脈路確保
転倒後、②で異常所見があれば、観察室や保護室などにベッド移動しましょう。
医師に報告し、モニター装着や酸素投与、静脈路確保や採血実施などを行いましょう。
採血や検査などは医師の指示が必要ですが、モニター装着や酸素投与、静脈路確保などは、看護師判断で実施し、医師に事後報告でも緊急時は差し支えありません。
急変や医師の指示に対応するため、救急カートの準備も必須です。
同時進行で、管理職や管理当直(夜間)に一報入れておくとベターです。
🌟ポイント🌟
💎異常所見があれば、観察室や保護室にベッド移動
💎急変に備えて救急カートを準備
💎ひとまず、看護師判断でモニター装着や酸素投与
💎同時進行で、医師や管理職や管理当直(夜間)に報告
④リーダーや医師に報告しCT検査・採血検査の実施
リーダー経由や直接医師に状況報告後、医師の指示に準じて、
点滴の開始、採血検査、CTや超音波検査などの画像検査を実施します。
検査室への搬送は看護師2名で搬送しよう。
また、患者状態に応じて、ベッドサイドモニターのモニター部分を外し、検査直前までモニター装着しておきます。
酸素化も悪ければ、酸素ボンベを携帯し酸素投与しながら移送します。
🌟医師の指示で、採血検査や点滴の実施、画像検査の実施(搬送は2名で)
🌟搬送の間も、患者状態に応じてモニターを装着し酸素投与
⑤結果に応じた治療や患者状態の観察を継続
採血や画像検査などの結果に応じて、患者の安静度やモニター装着、酸素投与の指示、VSの測定回数などの指示を受けます。
また、必ず医師が直接診察したうえで、最終的な診断や指示を出してもらいましょう。
看護師の看護記録や報告だけで、医師が診察しない状態は、患者の安全安楽に反します。
看護師の自己防衛の観点からも避けよう。
それでも医師が診察に来なかった場合には、看護記録にその旨を記載し、管理職や上席医に報告して指導や改善を要求しましょう。
🌟ポイント🌟
🔮検査結果に応じ、患者の安静度、モニター装着、酸素指示、VSの測定回数の指示受け
🔮必ず医師が診察したうえで診断や指示を出してもらう
🔮医師が診察しない場合には、看護記録の記載と、後々管理職や上席医に報告し改善を要求
抗血小板・抗凝固薬内服と転倒転落
抗血小板薬や抗凝固薬を内服中の患者では、さらに頭蓋内出血や骨折での大量出血のリスクが高まり、死亡リスクは上昇します。
日本医療安全調査機構の発表で、医療事故報告(2015年10月~ 2018年12月末)で、転倒・転落に関する死亡事例は18件です。
そのうちの7件では、抗血小板薬あるいは抗凝固薬を内服していたとされます。
脳卒中症状や肉眼的な骨折や外傷所見がなく、意識清明であっても、医師に報告しCT検査を実施するように依頼すべきです。
また、CT所見で少しでも疑わしい出血所見があれば、
あらかじめ時間を決めて、数時間後に再度CT検査を行う必要があります。
たとえ疑わしい出血所見がなくても、数時間後に神経学的所見があれば、医師にCTの再検査について相談するのがベストです。
🌟ポイント🌟
🌳抗血小板薬・抗凝固薬を内服中の患者では、CT検査を依頼する
🌳一回のCT検査で出血所見がなくても、数時間後に異常所見があればCTの検査を相談する
CT検査できない場合の対処法
病院によっては、CT装置が無かったり、夜間や週末に放射線技師が不在で、検査できない場合も考えられます。
その場合には、以下の対策が必要です。
💎必ず医師に診察を依頼し診断してもらう(口頭や診療録の指示のみは禁忌)
💎患者の状態変化に備えて各種の医師指示をうける(安静度・VSなど)
💎診察後も、翌日までベッド上安静にして観察室で観察(必要時モニター装着や酸素投与)
💎後日、放射線技師が勤務日にCT検査を検討
💎患者状態が疑わしい場合には救急搬送を強く要請し、医師から転院先に電話依頼
先ほども述べた通り、看護師の報告や記録だけで、医師が指示を出すのはNGです。
必ず、医師に診察を依頼し最終的に診断してもらいましょう。
また、患者の状態変化に備え、安静度やVSの強化有無、酸素投与、モニター装着、点滴補正、禁飲食、内服薬の中止有無などの指示を受けましょう。
看護師サイドでも、看護師判断で一時的にモニターを装着してモニタリングしたり、スタッフステーションから近い部屋で見守りを強化する対策もありです。
夜間に、放射線技師や検査技師が常駐していない場合で、患者状態の疑わしい際には、医師に救急搬送を強く要請しましょう。
それでも医師が様子観察とする場合には、師長に一報入れて指示を受けましょう。
師長経由で当該医師に取り合ってくれる可能性があります。
万が一事故が起きても、看護部や自身の責任を回避できます。
転倒転落後のまとめ

個人的に、転倒転落後の患者観察や検査は、過度でやりすぎでもよいと考えています。
特に、高齢者は脳委縮に伴い、頭蓋内出血しても症状に乏しい場合が多々あります。
さらに、高齢者は予備力低下や身体の脆弱性もあり、放置すると命に関わる可能性もあります。
患者の安全第一で判断するべきです。
また、転倒し頭部外傷直後では、意識レベルや神経学的所見に異常がみられず、その後急速に症状の悪化例や死亡例が多数報告されています。
転倒転落後数時間経過後に、症状出現する可能性も考慮しましょう。
患者の安全が担保されるまでは、特に夜間はリスクを最小限にとどめ、安全面を強化すべきです。
✅高齢者では脳委縮のため自覚症状に乏しい
✅転倒し頭部外傷直後では、意識レベルや神経学的所見の異常がない場合も多数ある
✅転倒転落後数時間は意識レベルや神経学的所見の強化が必要
✅抗凝固薬・抗血小板薬内服中の患者ではCT検査は必須。必要に応じて複数回実施する
病院の体制としては、
放射線技師や検査技師をオンコールで待機させる体制、
技師自体を増やして夜間当直させる体制、
急変時対応できる医師の拡充が必要です。
看護師も、転倒後の対応について、日ごろからシュミレーションや訓練などで研鑽し、
転倒転落に備えていく準備が求められます。
この記事が、看護師が転倒転落後の対応に役立てば光栄です。
ひろくま(HIROKUMA)
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