病院での患者の私物管理と、紛失・盗難時の責任の所在について悩んだりしてませんか??
わたしの働いていた某病院では、入院前に病院のパンフレットで、
「万が一、紛失や盗難等があった場合、一切の責任を負いかねるため、現金や貴重品の持ち込みはご遠慮願います。お持ち帰り下さい」と、必ず看護師が家族や患者に事前説明してます。
また、入院時に私服に現金や貴重品がない状態を確認し、患者か家族に念のため何も無かった状態を説明してます。
それでも、なかには患者や家族から、後日私物が無くなったと責任追及されることがあり、清明な患者以外は、各勤務帯で財布の中身をなんと1円単位で確認していました。
しかも、それを電子カルテで金額を入力する迷走ぶり。
何と夜勤帯でもです。
かなりの時間を浪費するため、他の業務に大きな悪影響でした。
その他にも、患者が自己管理している眼鏡の紛失が1件出てから、各勤務帯で眼鏡の所在を確認し始めました。
しまいには、杖や靴、テレビカードの枚数、ラジオ、義歯などを、すべて確認するようになる始末。
他に何も作業出来なくなります。
現場は、看護部から一方的にその都度過失を咎められ(そもそも過失には当たらない)、患者・家族対応や今後の対策を押し付けるだけでした。
何かまた紛失が出れば、現場や紛失した勤務帯の担当者に、責任や対応を強いるような病院でした。
本当に紛失したのかすら疑問ですが💧
理不尽なことで、現場で真面目に働いている看護師が責任追及されて、精神的にダメージを受けたり、体調不良で欠勤してはとても報われません。

自分の体験談から、病棟での患者の私物管理に関する法律上の知識をしっかりと身に付け、リスクを抱え込まないようにしましょう。
消費者契約法と免責事項について
入院時に、パンフレットや書類上で、私物の紛失や破損などについて、責任を負わない旨の記載を、「免責条項」と言います。
病院と患者間で締結される診療契約は「消費者契約法」という法律により規律されます。
病院と患者との契約関係において、病院は事業者、患者は消費者に該当します。
ただし、パンフレットや書類上で責任を負わないとする免責条項は、消費者契約法に基づくと無効である可能性があります。
無効になり得るケースとして、病院側に何らかの落ち度がある場合には、免責条項にその場で患者や家族が同意したとしても、病院は紛失・窃盗等について責任追及や損害賠償責任を負う事例があります。
したがって、事前説明による免責条項が、無条件で認められている訳ではありません。
入院前の私物管理に関する説明と免責条項の有効性
免責条項のポイントは、病院側に何らかの落ち度があった場合です。
それゆえに、「万が一、 紛失や盗難があった場合、病院に何らかの過失がない限り、一切の責任を負いかねます」として、病院が無過失の場合は責任を負わないことを明記し、入院時に患者・家族に注意喚起しておけば良いだけの話です。

上記を満たしてあれば、自己管理の患者の私物はもちろんとして、たとえ認知症患者の私物の紛失・盗難に関しても、病院側の過失は法律上問えません。
よく上司が「認知症や高齢の患者は、自分自身で私物を管理できないから、責任問題上、看護師が管理しなければならない」と発言していました。
管理できるはずがないです。
病棟看護師が管理する法的責任もなければ、管理などできるはずもありません。
実際、ホテルや車のパーキングでは、同じような但し書きが掲示されており、法律上で業者側が紛失に対して一切責任を負いません。
「病院では対応が異なる」などと発言する管理者こそ無知で無責任です。
次に、もう1つの盲点について説明と対策を考えていきます。
診療契約に付随する安全配慮義務について
病院は患者と診療契約を締結しており、診療契約に付随する義務として、患者の生命、身体、財産に危険が生じないよう安全配慮義務を負っています。
そのため、紛失や盗難予防に関して、回避するために何も対策を講じなかった場合には、患者・家族が安全配慮義務違反を主張し、損害賠償責任を求めてくる可能性があります。
それを防止するために、患者の家族や施設職員、代理人などに以下を注意喚起します。
✅基本的に現金や貴重品を院内に持ち込まない
✅やむを得ない場合、患者用の金庫に入れて施錠し管理するように説明
✅自己管理できない患者の場合には、全て持ち帰ってもらうか、盗難・紛失時は責任を問えない旨を事前に文章で説明(入院時に書面を取ることが最善)
✅病棟内や部屋に、盗難・紛失に関する注意喚起の紙を貼付
✅私物にできる範囲で名前を記載
✅紛失・盗難予防のためのルール作りをする(煩雑化したルールは避ける)
以上を実践することで、病院側は、安全配慮義務違反を理由とした損害賠償責任を回避できます。
患者の現金や貴重品と病棟内の金庫管理
以外とありがちな失態が、認知症患者や清明でない患者の所持品を、病棟内で金庫管理することです。
実は、一見安全に管理しやすいように見えて、自らリスクを抱えることになります。
病院が患者の所持品を預かった場合は寄託契約が成立し、寄託物に対して管理責任が発生します。
民法の詳しい説明はここでは避けますが、寄託契約が発生すると「自己の財産に対するのと同一の注意をもって保管しなければならない」と定めています。
自己管理であれば紛失・盗難時も病院側の過失は問われません。
所持金を一旦預かってしまうと、寄託契約が成立するため、紛失・盗難時には賠償責任を問われるリスクがあり推奨しません。
しかも、所持品は金庫に入る物だけでなく、先に挙げたラジオや義歯、杖などは金庫管理できません。
一部の貴重品を預かるだけでは、リスク回避できず中途半端な対応となります。
それに、特定の患者の所持品だけ病棟内の金庫で寄託管理する行為は、一部の患者だけ優先することになり平等性に欠ける行為です。
「認知症だけ優先して預かるなんてどこに文言や法的根拠があるんだ」
「こっちの貴重品もすべてそっちで管理しろ。不平等だろ」と言われたら、
管理職はどう返答や対処するのかご指導頂きたいです。
患者全員に言われたら、全患者の貴重品を預かるしかなくなりますよね。
不満を言わない善良な患者には、院内ルールに従わせるようなやり方は非常に不平等だと感じます。
また、以前病棟金庫から患者の金銭が盗まれたケースもあり、残念ながら職員が絶対に金銭を盗まないとも限らず、絶対に安全とは言えないのです。
認知症や高齢患者で日用品の購入や支払いのために多額の現金が必要になる場合は、院内にATMを設置したり院内専用のICカードの導入などを検討し、職員か家族同伴とサインが無しに引き出せないようにする必要があるでしょう。
そのための設備投資しないが、すべて現場の看護師が責任を持ち管理を強いるような、管理者や病院の無理難題に付き合って消耗する必要はありません。
患者や家族との関係性の構築
いざ紛失や盗難等が発生すると、病院に法的な責任が生じない場合でも、患者との信頼関係の損失や、紛失物の大捜索や警察対応などの負担が発生します。
それを防ぐために、患者や家族に紛失・盗難に対し前もって注意喚起し、危険意識を持ってもらうことが重要です。
また、日頃からの患者・家族対応が良好であると、お詫びで済むことが多いため、普段からの患者との信頼関係の構築も鍵です。
責任追及(クレーム)に対する正しい対応
本来、責任追及(クレーム)は、心情理解はした上できちんと線引きをして、組織・個人への責任追及や賠償責任など、過度の要求については一貫して譲らないことが基本中の基本です。

患者や家族の心情理解はしても、ただ謝罪やお詫びを繰り返しても意味はありません。
ますますクレーマーの度合いが助長されるだけで、何の解決にもなりません。
特に、病院側に責任があるかどうかわからない段階では、病院側の非を全面的に認めてお詫びするのではなく、不快な思いをさせたこと、手間を取らせたことに関してお詫びすることが重要です。
わたしの以前の職場の上司も、ご機嫌伺いで一方的に謝罪してましたが、一番やってはいけない軽率で中途半端な行為と言えます。
そういう病院ほど、ミスした担当看護師に対していつまでもさらし者にします。
クレーム処理は、組織の体制を改善するもので、個人を罰しても体制は改善されません。
患者の私物管理に関するまとめ

本来は、病院の医療安全管理者や看護部長・副部長クラスが、免責条項や診療契約に基づき院内ルールをマニュアル化して私物管理をするべきです。
現場レベルでの業務改善だけでは問題は解決できず、現場のスタッフを守れません。
たとえ、他の看護助手やクラークなどが患者の私物管理を行ったとしても、その都度私物を確認するようなやり方では、紛失や盗難のトラブルは発生します。
わたし達も法律の知識を持ち、看護部や医療安全委員会などに法的根拠で訴えることで、管理者も病院の患者・家族対応を変えざるを得なくなり、結果的に我々現場の看護師の待遇が改善されます。
また、紛失や盗難を減らすためにも、私物や金銭は極力持ち込ませず、紛失・盗難時には責任を負わず、患者の自己責任とする免責条項について、事前説明して同意を取ることが重要です。
🌟患者の私物管理に関するポイント
🌌私物管理に関する免責条項や診療契約について個人的に知識を持つ
🌌私物管理について、免責条項や診療契約に基づき病棟の盗難防止ルールづくりを看護部を通して依頼し、院内マニュアルの整備や免責条項に関する同意書を整備してもらう
🌌職員が私物管理する行為や体制を取りやめて原則自己管理とする
🌌職員が私物を預かる場合、病棟金庫に収まる物品に限り金銭は預からない
🌌多額の現金持ち込みをなくすためにICカードや院内ATMを整備する
🌌患者や家族に盗難や紛失時の免責条項について事前説明し同意を取る
最終的に、紛失や盗難などのトラブルが起きても、現場の看護師が責任を負うようなシステムでなく、病院全体で責任を負い対処できるシステムづくりの構築が必要でしょう。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
ひろくま(HIROKUMA)
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