あなたの病院では、認知症患による暴言や暴力(他害)行為は起きていませんか??

先日も、認知症患者に腕をつねられて、腕に傷ができました。半袖着るのが恥ずかしいし、傷跡が残ったらって心配になります。

その気持ちすごくわかるよ。自分は男性だけど、つねられたり叩かれて怪我したら憤慨するし、まして女性なら何倍もつらいよね。
認知症患者からの暴言暴力に対して、法的に患者や家族に慰謝料を請求可能かや、怪我をした時の保証制度について解説していくね。
🌟この記事から分かること
✅暴力行為のある認知症患者に対する損賠賠償請求の可否
✅暴力行為のある認知症患者の家族の法的責任
✅患者の暴力行為による怪我(外傷)と給付制度
✅病院の労災保険に関する認識
✅労災保険と労働基準監督署(相談窓口)について
日本における認知症の人数
「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計によると、
2020年65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%(約600万人)で、
高齢者の6人に1人が認知症有病者とのデータがあります。
日本の総人口は約1億2000万人であるため、日本で20人に1人は認知症有病者と言えます。
また、2025年には、高齢者の5人に1人が認知症有病者になるとの推計もあります。
認知症患者の暴力行為と法的責任
民法(713条)によると、
「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない」とあります。
認知症=損害賠償責任を負わないことではないですが、
認知症=責任能力を持たないと解釈され、
患者自身の暴力行為に対して賠償責任を負わないのが現状です。
患者に財産があり、十分な支払い能力があっても、患者の損害賠償責任は問えません。
弁護士や労働裁判で訴えても、示談交渉は困難でしょう。
一部の家族は、罪悪感から謝罪や迷惑料を支払う可能性はありますが。
認知症患者の家族や後見人への損害賠償請求
民法(714条)によると、
「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときはこの限りでない」と記載されています。
自宅で看護師(訪問看護など)が他害行為を受けたケースでは、同居者や付き添い者(家族・後見人)が監督責任者となります。
監督責任者が、認知症患者の他害行為を十分抑止できる状況なら賠償責任を負います。
ただし、監督責任者が高齢や障害者、要介護者、不在などで起きた他害行為については、監督義務責任のない可能性が高いです。
病院や施設入居中は、
事業者が患者や看護師などのスタッフに安全配慮義務や監督義務責任を負うため、
家族や後見人に監督義務責任は生じません。
よって、家族や後見人に賠償責任を請求するのは困難でしょう。
むしろ、家族が反撃手段として、病院に安全配慮義務違反を問う可能性があります。
病院や上司から、トラブルメーカーとして認識されるリスクがあるため、避けた方が無難でしょう。
また、例え家族との示談交渉がうまくいっても、弁護士費用や時間的消耗を考えると、割に合わないので正直お勧めしません。
そこで紹介したいのが労災保険制度です。
患者の暴力行為と労災申請
労災保険とは「人身被害(負傷、疾病、死亡)のうち、労働者性があり、かつ業務起因性が認められるもの」をいいます。

大抵、認知症患者を受け入れているような病院や施設では、看護師などの職員の傷害や事故に対しての保険加入を行っており、労災保険で治療費を清算するかたちになります。
特に、患者から暴力行為(噛みつき、引っかき、手足での殴打など)は、業務上の事故による負傷であるため、労災が適用される可能性が高いです。
業務遂行中であれば、業務と怪我に相当な因果関係が認められるので、労働災害と認められます。
病院の管理者は、患者だけでなく、看護師などの労働者に対しても、安全配慮義務を行う必要があるのです。
労災申請と健康保険
労災扱いになると、労災保険の適応となり、健康保険(健康保険証)が使えません。
労災指定病院で治療は受けると、治療費を負担する必要がありません。
ただし、入院した場合は、個室料や日用品は自己負担になるので注意が必要です。
労災指定病院以外で治療する場合は、いったん当事者が治療費を立て替えする必要があります。
後日、治療費が支給されるシステムです。
✅労災保険:業務上や通勤での怪我や疾患に備えた保険や病気に備えた保険
✅健康保険:上記以外の怪我や疾患などに備えた保険
健康保険から労災保険に、途中で切り替えの手続きするのは面倒で煩雑です。
はじめから労災と考えられる場合には、病院で労災保険を申請しましょう。
労災申請書を提出すると、健康保険で支払った治療費の全額が療養補償給付されます。
万が一、外傷により障害が固定した場合には、障害等級に応じて年金か一時金が支給されます。
ただし、障害補償給付を必ず受給できるわけではないので注意が必要です。
病院の労災とデメリット
病院や施設にとって、労災によるデメリットは以下の通りです。
✅労災件数が増加するに従い、病院が負担する労災保険料率の上昇
✅労働基準監督署の立ち入り調査に対する、準備・対応・報告などの煩雑さ
✅病院のイメージダウンのリスク
✅労災認定事案に対する従業員からの訴訟と損害賠償請求のリスク
ブラックな病院などでは、上記を懸念して、他害行為をなかったことで労災制度を提案しません。
スタッフから労災の申請がない限り、上司から病院に掛け合って労災保険を申請するように助言してくれることなど、経験上なかなかありません。
ブラックな病院では、上司も管理責任を問われかねないからです。
ただ、労災隠しは重大な罰則があるため、当事者の申請に対して拒否することは少ないでしょう。
当事者も、安易に健康保険を使用すると、大変な事態になるリスクがあるので注意しましょう。
理由については次に述べていきます。
病院の労災隠しと罰則
労災の隠ぺい行為は、50万円以下の罰金が科されます。
さらに、刑事事件となり書類送検されるケースも少なくありません。
他害行為を受けた当事者も、本来労災保険で治療すべきところを、
もし健康保険を使用して治療したのを労働基準監督署に知られた場合、以下のリスクがあります。
✅健康保険協会・組合から保険給付の取り消しと返還を迫られる(全額自己負担のリスク)
✅労災事例を健康保険証を提示→保険金詐欺の隠匿行為と見なされ刑事罰や行政罰のリスク
労災なのに健康保険証を呈示して治療を受けるのは、一種の保険金詐欺行為なのです。
当時者は、病院から健康保険証での治療を指示されても、決して従ってはいけません。
病院側も、健康保険での治療を勧める行為は保険金詐欺の教唆罪にあたり、重大な労働基準法違反なのです。
それに、健康保険では3割実費ですが、労災保険では後に全額給付され実質負担0です。
どちらが良いかは、比較するまでもありませんよね。
もし病院で上司や事務(総務)などに労災申請しても取り合ってもらえない場合には、
病院を管轄する労働基準監督署に相談・報告しましょう。
法的知識と実行力に勝る武器はありません。
看護師の自賠責保険と労災保険
もし、自賠責保険に加入している場合には、自賠責保険と労災保険のどちらがお得でしょうか?
労災は厚生労働省の管轄である一方、自賠責保険は国土交通省の管轄です。
両者ともに国の管轄であり、労災保険と自賠責保険を併用し請求はできません。
ただし、重複しない項目については併用可能です。
特に、自賠責保険での給付金以外にも、労災保険で特別支援金などを給付できる場合もあります。
自賠責保険と労災保険の窓口に相談して、併用できる部分はぜひ活用しましょう。
まとめ

現行では、認知症患者は責任を問われず、家族も賠償責任がないのが現状です。
一時、国で公的な保険制度を検討されていましたが、財源や判例数などの問題から未定の状態です。
わたし達看護師ができることは、患者からの暴力行為をいかに防ぎながら、暴力行為を受けた場合には、確実に労災保険給付を受け自己防衛することが必要です。
また、暴力行為を受けた1人1人が確実に安全面での課題や不備を病院に対して訴えつつ、その都度病院に労災申請するだけでも、病院側は安全配慮義務に対策を講じざるを得ないでしょう。
結局、残業代や有給休暇もそうですが、病院や経営陣にとってコストが甚大と理解して、病院のシステムを改善しようと意識付けにもつながります。
安心して国の給付制度を利用して、労働者の権利を行使しましょう。
この記事が、患者の他害行為を受けたことがある、受ける恐れがある看護師さんのお役に立てれば何よりです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ひろくま(HIROKUMA)
投稿を編集 “【同僚の実体験】特定患者からの暴言による精神障害と労災申請について解説” ‹ 看護師ひろくまブログ — WordPress (nurse-hirokuma.com)
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